美の壺 「セーター」特集  アランセーターについて

2019年2月10日の23時からNHKの番組「美の壺」 で「セーター」特集の再放送があったようです。(初回の放送はBSプレミアム 2月2日 19:30~)

NHKの番組紹介のページの内容を抜粋すると
「繊維の宝石」とうたわれるカシミヤセーターの“ふんわり感”の秘密とは!?宮城・気仙沼で作られる、予約2年待ちという手編みセーターが登場!極上のあったかセーターを生み出す編み手の技には、港町ならではの意外なルーツが。傷ついたセーターをかわいく直せるテクニックも紹介。アランセーター、フェアアイルセーターなど、伝統的なセーターの柄に込められた先人たちの知恵や思いをひもとく。
とあり、アランセーターやフェアアイルセーターの紹介やセーターの素材、ダーニングなどが取り上げられていたようです。アランセーターやシェトランドセーターは持っていないのですが、前々から興味があったこともありアランセーターやシェトランドウールについて調べました。

アランセーター

アランセーターはアイルランドのアラン諸島で漁に出る夫のために編まれていたセーターが発祥のセーターです。独特な編み目が特徴で防水と防寒を目的として編まれています。伝統的なアランセーターは防寒のためかセーターとしてはかなり重い部類に位置付けられ、着るとずっしりとした重みを感じます。また、漁のための仕事着ということで使われている糸も特徴あるものだったようですが、現在売られているアランセーターの多くで使われている糸にはより日常着に適した糸が使われています。

番組では手編みのニットウェアを製造する企業の1つとして「気仙沼ニッティング」が紹介されていたようです。上記の気仙沼ニッティングのサイトでは編み方だったり糸に対するこだわりなどが説明されています。

この会社のニットは需給のバランスだったり、生産に時間がかかるためか注文してから手に届くまでにかなりの時間がかかるようです。WWD JAPANに「14万円のセーターを求め300人待ち 気仙沼ニッティングが目指す復興支援を超えたモノ作り」っていう記事があって、それによると2年くらいかかるようです。

高価なオーダーメードのニット製品がそれなりに売れてるっていうのは、生活に余裕がありそういうところまで気を遣う人が一定数いるってことで、それが商業的にも成り立っていることには少し驚きがあります。

オーダーメイドで作る必要性ですが、私の場合だとオーダーメイドで作るならジャケットやコートのほうが先かなと思っています。
というのも、ニット製品は柔軟性があるので探せばそれなりに満足できる商品が相対的に見つかりやすいから。なので、より体に合わせて作ったほうが満足度の高いものから作ったほうがよさそうだと思っています。

当たり前ですが、オーダーメイドであればいつでもどこでも最適なものができるってわけでは全然なくって、採寸の知識や技術や経験、それにそれを対象とする製品にどれだけ落とし込めるのかってことであったり、作り手が上手く作る技量を持っているかってことが結局のところ重要になってくるので、それらをそのお店がどの程度持っているのかを判断した上で、支払う対価に見合ってるかどうかを判断する必要があるので、ちゃんとしたものをオーダーメイドで作るってことは簡単なことではないと思っています。

アランセーターの編み方による分類

アランセーターの編み方ですが大きく分けると手編み、手織り、機械編み3種類があり、手編み、手織り、機械編みの順で安価になります。ニット製品全般に言えることですが、どこででも買えて手頃な価格帯のニットのほとんどは機械編みのものになります。手編みあったり手織りの場合にはそのことがわかるような表示が商品やタグ、商品を紹介しているサイトに記載されていたり、価格帯が他の一般的な商品とは異なっていますので、そういったところで見分けられると思います。

アランセーターの価格帯ですがかなりの幅があり、価格に見合わない品質の商品であったり、高品質を謡った安価な商品には気を付ける必要があります。
価格以上の品質を持った商品が商業的に作られることは原則としてありません。一方で、品質はさほどでもない見せかけだけの高級感を纏った高価な商品は結構あったりしますよね。

手編みかどうかの区別は、雰囲気だったり機械では編むことのできない複雑なアランステッチがあったりすることもあり、見る人が見れば見分けることができるそうです。ただ、余程ニット製品の知識がある人でなければをぱっと見ただけで区別するのは難しいかもしれませんね。確かに慣れると見た目や触った感触で商品の良し悪しを判断できるようになりますが、初めからそんなことはできるわけもないし、実際に比べてみて初めて違いが実感できるし比較する力もつくようになるのですが、結局はその差をどう評価するかってことだと思います。

セーターにあまり興味がなかったけどアランセーターの雰囲気をそれなりに味わいたいって人なら機械編みでも十分のような気がしますし、いろんな違いを理解した上でこだわりたいってことなら手編みのものを購入すれば良いってことで単純といえば単純な話になりますね。

対象とする市場による分類

番組では細かく紹介されていなかったようですが、アランセーターと呼ばれるニット製品には以下のような分類もあるようです。
  • 伝統的な手編みの漁師のためのセーター
  • 観光客のために島で編まれたセーター
  • 自国および輸出市場向けに製造されたセーター
私たちがそれほどお金と手間を掛けずに購入できるのは、「自国および輸出市場向けに製造されたセーター」になります。

ちなみにアラン諸島で売られているアランセーターですが、なかには良いものがある一方で安い輸入品が売られている場合もありますの注意が必要です。日本でもよく観光地のお土産でその地域の特産品ではなく海外産の安価な材料が使われたりしていることがありますがどこも良く似ていますね。

アランセーターのステッチ

アランセーターには多くの種類のステッチが使われます。
「ケーブルステッチ」、「ロープステッチ」、「ハニカムステッチ」、「ダイアモンドステッチ」、「The Zig Zagステッチ」、「Crooked Roadステッチ」、「The Tree of Lifeステッチ」「ブラックベリーステッチ」などの様々なステッチを組み合わせて作られいてそれぞれの模様には意味があるようです。編み物の本やネットでアランセーターの編み方を調べてみるとある程度わかりますし面白いと思います。

アランのセーターの糸

アランセーターの特徴はその彫刻的な編み方以外にもあり、伝統的なアランセーター使われる糸ですが一般的なニット製品に使われる糸とは違った独特の糸が使われているそうです。尤も現在ではアランセーターを作るためのウールの一部にはアイルランドのウールが使用されているものの多くは輸入された糸になります。

伝統的にアランのセーターは、脱脂していない未染色の羊毛から作られていました。肌触りも油っぽくざらついていて、外観はクリーム色がかったオフホワイトで、羊のような香りがするのが特徴です。
アラン島で観光客向けに編まれたセーターには、洗浄され部分的に処理され紡がれた糸が使われています。伝統的なセーターとは違って色がやや淡く質感は相対的に伝統的なものより良くなり香りも薄められています。
ただどちらのセーターも日本での日常使いにはそれほど向かないようにも思えます。そういうわけで一般的な市場向けのセーターには普通の糸(ウールを処理して染色したもの)が使われます。そのため、伝統的なアランセーターの持つ油性の防水品質は持っていませんが、美しく編まれたステッチを保持できるように、手触りが柔らかすぎないしっかりと撚られた糸が選ばれます(やわらかいウールだと時間の経過とともにステッチが崩れてしまいます。)。

アランセーターの日本語での解説では「株式会社ジャック野澤屋」のサイトの充実していますので、詳しく知りたい方はそちらをご参照ください。アランセーターの販売を長年行っているだけではなく、この方は「アイルランド/アランセーターの伝説」という書籍を繊研新聞社から出版していて、雑誌などでアランセーターの特集がある際などに記事を書かれておられるようです。なお書籍自体は絶版のため購入できないようです。

フェアアイルセーター

Fair Isle(フェア島)の漁師が着ていたセーターでカラフルな幾何学模様の横柄が特徴。柄は漁師の家紋をあらわしたものだそうです。フェア島はシェトランド諸島を構成する島の一つ。この柄が使われているセーターのことをフェアアイルセーターを呼んでいます。

シェトランドセーター

シェットランド諸島産の羊毛で作られたセーターのこと。似せて作られたものシェトランドセーターと言われています。

シェトランドウールを扱う日本でも知られている会社の1つかもしれませんが、Jamieson&Smith Shetland Wool Brokers Ltd.という会社があります。ここのサイトのトップページには「日本のお客様はここをクリックしてください」と記載されていて、注文時の注意事項などが記載されていてるので、日本からの注文もいくらかあるのかもしれませんね。
この会社ではシェトランドの700以上の製造業者や農家からシェトランドウールを購入し、それを糸、ニットウェア、毛布、カーペットなどの高品質シェトランドウール製品に加工しているそうです。この会社の製品にはすべて3シープのロゴが付いていて、島で生まれ育った羊の100%本物のシェトランドウールから製品が製造されていることを示しているそうです。 188cm×131cm  のラグだと£ 71.99で売られているようです。(2019.2.11時点)

その他、日本で売られているシェトランドウールの製品を扱う会社としてはAnderson&Coがよく知られているようです。この会社は1873年にThomas Andersonが創業しJamiesonの糸で紡がれた最高級のShetlandウールのみを使用したニット製品を作っていて日本では株式会社グリフィンインターナショナルが取り扱っています。

また、完成品ではなくシェトランドウールの毛糸を使ってニットを自分で編みたいっていう場合には、Jamieson's of Shetlandで毛糸を買うことができるようです。

もう少し詳しく知りたいって人は「Shetland Islands Council Our Creative Community(英語)」を参照してください。

これらの糸を使ったセーターはメリノ種のセーターと比べてしまうとどうしても糸の太さが気になってしまいます。なので、どうしてもこの雰囲気を味わいたいっていう人は購入を検討したら良いと思いますが、機能性重視って人はいろいろ他をあたってみても良いように思います。

確かにシェトランドセーターの話であったりアランセーターの立体的なステッチはとても素敵ではあるのですが、なかなか私の生活には取り入れるとなると難しそうなこともあって、これらのセーターを購入することはなさそうだなって調べてみて改めて思いました。

カシミヤセーター

カシミヤ製品についても番組では触れていましたが、カシミヤのことは過去に書きましたのでここでは省略したいと思います。カシミヤについては過去の以下のブログを参照してください。

カシミヤセーターの“ふんわり感”の秘密って何ということなんですが、このふんわり感については糸の細さ、それに洗濯などで糸の撚りから出た繊維によってもたらされるといった解説になっていました。

ちなみにカシミヤについての説明で番組に出演していた遠藤政治(えんどう・まさじ)さんは株式会社ユーティーオーの工場長の方のようです。
この会社のユーティーオー通信の2012年頃の記事は糸やカシミヤの原毛のことについて詳しく書いてあってとっても面白いです。

ニットの素材

番組ではでてきていないようですが、希少なニット製品の素材で最も有名で高価な素材はビクーニャ。それ以外だとQIVIUK(キヴィアック)、RED DEER(レッドディア)などがあります。QIVIUK(キヴィアック)、RED DEER(レッドディア)はあまり知られていない素材ということもありこのあたりを深堀した番組などを作ると面白いかもしれませんね。

ビクーニャについては「最も高価な天然繊維ビクーニャ(vicugna)」で簡単に書きましたのでそちらも参照ください。

参考

アランセーター

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